人間が求めるもの
人間は何を求めて生きようとしているのだろう。
それを求め続けてきました。
もし、そのことを知ることができれば誰もが願う<幸せ>のかたちが見えてくる、そうすれば向かうべき道が見えてくる、人生の目標が定まると思えたのです。
といって私がことさら不幸な生い立ちをしたわけではありません。むしろやりたいことをやってこれた幸せを感謝しています。しかしその思いも、そばに不幸せな人がいると沈みます。みんなが幸せにならない限り自分も幸せになれない。それが少年の日に抱いた幸福に対する私の感情でした。
ではどうすれば誰もが幸せになれるのか。
いい車に乗りたい、一戸建ての家に住みたい、健康でありたい、好きな相手と一緒になりたい、金を得たい、地位を得たい。誰しも心の中でいづれかを願ったことがあるに違いありません。努力し、その願いが叶えられる社会になればみんなが幸せになれる、そう思えた若い日もありました。
しかし、それは幸せの実現ではなくほとんどが欲望を満たすことにに過ぎないことを知りました。欲望は手に入れると、それはいつしか色褪せ、また次の欲望が頭をもたげます。果てしがありません。そればかりでなく欲望を叶えることによって人間として大切なものを失い、心貧しくなる人も見てきました。
幸せの実態は欲望の成就とはほど遠いものでした。
共に育つ
 これから私が紹介する創造共育法は人間が幸福になるための、活き活きと人生を全うするための「共育法」です。万人が身につけてこそ真の幸福が訪れることは言うまでもありません。
そして、教育は教える側と教えられる側に二分されるわけではなく、共に学び育たなければ死んだも同然となります。教える側が人間として上位にあると錯覚した時、真摯さは失われます。真摯さのない教育者は高慢になり、怠惰になり、被教育者からなにも学べなくなります。この時教育に生命は失われます。「共育」はそうあってはならないことを意味します。学び合う関係こそが二者を同化させ高めます。
不毛の時代
人類の歴史はすでに21世紀を迎えました。つい数十年前まで夢物語だった宇宙への旅すら可能にしました。しかし、戦争という人間同士の殺し合いはためらいもなく、いまだに続いています。そして、目を背けたくなるような少年少女の犯罪、行きつく果ては親の我が子に対するイジメ、その果ての子殺し。眼を覆うような事件は後を絶ちません。国を育て守るはずの立場の人たちの不正も日常茶飯事となりました。自分が快であることがすべてに優先されるようになったからでしょうか。いつの間にか美辞麗句ばかりが空を舞い、保身のための嘘を恥としない世の中になってしまいました。
幼児期にはやさしく、けなげで、ひたむきに<確かなもの>を求めた生命が、いつの間にか無気力になり、自信を失い、誇りも思いやりも放棄してしまうのは何故なのでしょう。
愛と自由の喪失
その要因は無数にあり、しかもそれが複合して私たちの心を蝕んでいるにちがいありませんが、煎じつめれば人間が人間として生きるうえで、どうしても無くてはならないものを幼児期・少年期に失なったからだと私は思っています。
@最愛の存在(多くの場合は母親)への信愛の情が裏切られること。
Aやりたいことができずに精神的自由が極端に軽視されること。
つまり、<愛と自由>を失い、生きることへの希望がもてなくなって、自分自身への愛さえかき消され、結果として正常な精神が保てなくなる──この時、人間は人間として生きていることの実感がなくなり、存在理由が失われます。いみじくも透明人間と自称した少年もいました。そのため存在理由を自己確認したい、ただそれだけのために他者の生命を断ち、事件を起こして「目立ちたかった」と言ってのけた少年もいます。
そして、その一方での自殺願望。とくに高齢者の自殺の増加は見るに忍びないものがあります。いまほど人との接触が可能な時代はないはずなのに、コミュニケーションツールが増えれば増えるほど反比例するように人の心は孤立化してきました。その中で生きる充足感は失われ、不安ばかりが増幅されて死を選ぶ。これが40億年の生命の歴史の果てに人類がたどり着く世界なのでしょうか。わたしにはそうは思えないし、思いたくもありません。かならず人間の社会ははるかに魅力的になる、いまわたしはそう信じています。信じるようにさせてくれたのは子ども達です。
人間の本来の姿は人間の原点である子どもの中にある、そう思うことはおかど違いではないはずです。その子どもが求めていたものが愛と自由でした。それは子どもに限らず、ほとんどの人間が求めているもののはずです。
愛と自由──昔から多くの人が言ってきたことです。誰もが口にすることです。しかし、その言葉の意味することを理解するのに、私には60年の歳月が必要でした。これから述べる創造共育法は自由を獲得しながら愛の認識に向かう筋道を示すものです。
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