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第3回 「愛の中で広がる世界」

長浜 真理 様 寄稿

 生後七ヶ月に入り、はいはいが長くなりました。戸を押し開けたり、ひとりで動ける範囲が広くなりました。お父さんと散歩に出かけると、いろいろな場所へ行っているようで、なかなか帰ってきません。人と触れ合う時間も増えて、視野が広がって世界も広がり始めました。

おばあちゃんに支えてもらいながら、円柱をポトン。不思議そうな顔をしています。(生後7ヵ月)

 積木遊びでは、お父さんが、右側に家やトンネルなどをつくり、純大が倒しにいきます。次に左側に積木を高く積むと、今度はそれを倒しにきます。左右交互につくり、物が完成するのが早いか倒すのが早いか競争をします。動く距離も長くなり、スピードも早くなっていきました。また、ママボールを、お父さんが壁にあてて、跳ね返ってきたものを取る。それを見ているだけで大喜びです。そのうち、ボールを追いかけて競争になります。私では迫力不足なのか、お父さんと二人で大はしゃぎしながら楽しんでいました。

<さくらんぼ>の下の方を一生懸命ひっぱっています。「うーん、とれないなぁ」(生後7ヵ月)

 ある日、さくらんぼの下の部分(握る部分)を、真剣な顔をしながら引っぱり、抜こうとしています。どうしてこんな遊びをするのだろう?と考えると、前日、コンセントを抜いていたことを思い出しました。自分の引く力に気づいたのでしょうか。それを童具で試そうとしていたことに驚きました。このように物を観察することが多くなり、たまゆらでは、赤い玉に興味を持ち始めました。口に持っていったり、手で触るだけではなく、指で赤い玉が上になるように回転させたり、すわっている時に手から落とすと、それを何度も拾っては持ち直してみたり。また、うつぶせの時は、たまゆらを動かしては追いかけたりしていました。

赤い玉が上にくるように、ぎこちない指でくるくる回します。(生後7ヵ月)

 この時期に食べたり飲んだりすることにも関心が出てきました。絵本の中に食べ物を見つけると、絵本をなめたり、うーうー叫び、手で取ろうとします。「はい、どうぞ」と言っておっぱいをあげると、とても楽しそうな表情をしてくれて、こちらまで幸せな気分になります。

 待ちに待ったクムンダが到着すると、すぐに遊びだしました。マンションからの景色や、聞こえてくる音、移動で利用することの多い電車や車。男の子という本能があるのか、組み立てて輪の中へ入れてあげると、すぐにクムンダカーをレール上に走らせました。そうかと思うと、車輪をつかみ、上下、左右に大きく揺らしています。一つの童具に一つの遊びだけではないことが、ここでもわかりました。

3つの<クムンダカー>を、一つずつ走らせてはポイと投げ、次々交換しては向きを変えて走らせます。(生後8ヵ月)

 自分の力で物がとれることを発見したのか、手が届く本を次々に取り出すようになりました。引き出しや戸棚を開けては中の物を取り出します。紅茶のティーパックは、袋を破るのが楽しいようで、粉の手触りを喜びながら、何袋破ったことでしょう。危ない物だけ気をつけて様子を見ていると、どんどん散らかりますが、純大の「どうしたの?」という表情を見ると、「好きなようにやってごらん」としか言えません。

なめて、かんで、転がして。音がする<ちゃこ>を持って、大好きなお父さんを攻撃中。(生後8ヵ月)

 八ヶ月に入って「いないいないばぁ」を一段と喜ぶようになりました。机、椅子、私たちの身体、隠れることのできるものを見つけて、「ばぁ」をしてくるようになりました。おにごっこやかくれんぼの時に、私たちが急に振り向いたり、反対回りをするのを見ているからか、自分でも右から「ばぁ」をしてくると思えば、左から出てきたりして驚かせます。私たちが驚くと、よけいに嬉しいようで笑いがとまりません。いないいないばぁは、緊張と緩和の遊びとのことで、「いるはずなのにいなくなる」という、一種心地よい緊張感を与えることになると聞き納得がいきました。

積み上げた立方体を倒したり、何度も繰り返して喜びます。(生後8ヵ月)

 「純大くん!」の呼びかけに、「はい!」と手をあげるようになったり、お父さんを見送るときにバイバイをしたり。人から呼ばれて応える、人と出会い別れる等、人との関わりを楽しんでいるようです。

(つづきは書籍でご覧下さい)

童具ダイアリー

お母さんが、純大くんの成長を遊んだ童具と一緒に記して下さいました。

  • 生後7ヵ月

12月13日
カラーボールを掴んだり、転がしたり、テーブルの下に落としたりしながら、「球」を意識しているようにみえる。

12月14日
食べ物の絵本に強く反応するようになる。授乳中にずっと笑い続けながら飲み、こちらまで嬉しくなる。

12月18日
ねじっこを転がしては、なめて、興奮気味になる。

12月20日
両手をもって、「おててぱちぱち」と言うと、今までグーのままだった手を、パーの形にして手が鳴るのを喜ぶ。
本棚から初めて本を取り出す。自分の力に喜ぶように、次々と取っては落とす。

12月27日
人形を一つずつ並べては納得する。

  • 生後8ヵ月

1月19日
ベビーベットのさくに登り、覗き込んで落ちそうになる。

1月17日
ふえを吹いてみせると、音にキョトンとしている。その後、ふえの穴をじーっと見つめ、手で穴を中心に触ったあと、なめまわす。

1月20日
絵本「だれかしら」(文化出版局刊)を読むと、とんとんとんのページのところだけ本をたたくようになる。
「ばぁば」とはっきり言い、おばあちゃんは大喜びする。これがしっかり、はっきり言った最初の言葉だと思う。

1月29日
私の真似をして、ママボールをつかみ、そのまま手をあげ、そこから離して落としては笑う。これを何度も繰り返す。

1月30日
しばらく遊んでいなかったベビーボールを渡すと、ひもがちぎれそうになるくらい振り回す姿に驚く。

 

純大くんとボール遊び

プレイルーム講師の星野由香先生に、純大くんを通して見えたこと・感じたことを綴っていただきました

 まだ母子分離されていない生命が、ベビーボールについた紐をとおして、お母さんに語りかけてもらいながら、ボールを目で追うようになり、掴むようになり、お母さんとひっぱりあいっこするようになります。ボールについたこの紐は、ボールを媒体とした母と子の身体的な会話をつないでいきました。妹と純大くんは、紐がついたボールをとおして、ますます親子の絆を深めているように思えました。

 純大君をだっこして、ベビーボールをゆうらゆうら。それを純大くんがつかまえます。「キャッチ!」そしてお口に「カプッ」少しの間ひっぱりあいっこ。今度は私がお口でボールをカプッ。すると純大くんは大喜びで紐をひっぱります。赤ちゃんは、自分がやってみたことを、大人がしてみせてくれるととても喜ぶことがわかりました。そのうち、この遊びがしたい時は、自分から私の口元にボールをもってくるようになりました。

 やがて、紐がついていない独立したボールをつついたり、カラーボールのおわんをひっくり返してボールを追いかけたり、ボールの動きが止まるのを待って、そうっとボールを掴んだり、ボールの動きに生命を感じているのがよくわかりました。

 純大くんは、私がボールを高く投げて、両手でつかまえると、とても喜びました。ボールと私の動きや、声かけを楽しんでいたのです。

 また、もうひとつのお気に入りの遊びがありました。つかまり立ちができる高さの机の上で、ボールを転がして、机からボールをころころっと落とし、そして床につくすれすれのところで、私がボールを掴むというのを繰り返す遊びです。

 ある日、いつものように一緒に遊んでいると、突然純大くんの表情が一変したのです。それは驚きと感動が一斉に押し寄せてきたような、何とも言えない顔でした。

 私に何度もボールを掴ませ、机の上からボールを落とさせました。何度も何度も。そして、自分でも机の上のボールを落とし始め、その後、いろいろなものを落とし始めたのです。そうです。彼はこの日、この時、物が上から下に落ちるということを知ったのです。まさに「万有引力の発見」の瞬間だと思いました。

 私は、この時のことが鮮明に焼き付けられました。人はこうして、自らが働きかけ、事態を変化させ、新しい何かを発見し、それを五感(官)をとおして体験し、何度も繰り返す。また新たな創造の世界へ旅立つ。彼の中に小宇宙を見た感動に震えました。

 とるに足らないと大人が感じる幼子の行動の中に、きっと発見の瞬間が連続して存在するのでしょう。未知なる世界を彼らは、常に感じ、発見の喜びに満ちています。

 そして、その瞬間の連続がある時、何かをはじけさせ、突然、世界が開けてゆくのでしょう。そのかすかな兆しと、その時を、親は共に知り、共にその喜びを感じて欲しいと願います。

 きっとそれは理屈ではなく、あまりある愛情の中で直観的な気付きとなるものなのでしょう。自分の理想像へと子どもを向かわせ、何ができる、何ができない、ということだけから子どもを見るのではなく、子どもが自ら発見していく姿を見守ってあげたいと、「和久洋三のわくわく創造アトリエ」の講師として改めて思いました。

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