童具館館長 和久洋三さんに聞く
「好きなようにやらせてあげて。どんどん貼っていいからね」
和久さんの優しい声が響く。和久さんが十五年前に開設した童具館(東京都大田区)内の「わくわく創造アトリエ」二、三歳児対象の親子クラスで、五組十人の親子が楽しげに作っている。
きょうのテーマは「鬼のお面」。ベニヤ板を好きな形に電動のこぎりで切って、木片や粘土などを好きなように貼り、好きな色に塗っていく。
和久さんが子供に「おもしろいよ、いいよ」と声をかけると、子供は「やったあ。怖い顔になってる?」と無邪気に聞き返す。
長男が夢中で作るのを手伝っていた横浜市の主婦、三村真弓さんは「先生が『こうしなさい』と言わないから、子供が本当に楽しそう。子供の作品を見て、すごいなと思う」と話す。
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児童書の出版社、保育園での保父体験、童具創作、アトリエと三十五年以上、子供とかかわり、保育園などで指導もしてきた和久さんだが、意外なことに、子供の力を信じられるようになったのは「ここ数年」という。「どこかで、子供の能力ってのは、この程度と思っていた」
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夢中になることで自信
和久さんのアトリエに、来ても何もしない子供がいた。母親は一緒に来ては、子供を見守っていた。一年後のある日、その子供は猛然と描き始めた。まったく話さなかった子供がべらべら話し出す場面も目にした。
「子供は劇的に変わる。いじくり回して小さく育てず、能力を信じて待っていてほしい」
「自分のやりたいことを夢中でやる楽しさを経験した子供は、自信がつく。自信がないと、失敗して傷つくのが怖く、ことなかれ主義になる」
そんな思いを伝えたくて、本を書いた。 |